代表インタビュー

明るく和やかに、チーム力で“金属のプロ”であり続けたい

明和金属工業は2019年10月、4代目代表取締役社長として渋谷剛志が就任した。若き社長が描く明和のこれからとは? 令和という新たな時代の節目、新社長と先代社長にロングインタビューを敢行した。

「明るく和やか」で、家族ぐるみのあったかい会社
―明和金属工業の歩みについて教えてください

祖父の豊三が、1953年(昭和28年)に大阪市東住吉区桑津の地で創業。1965年(昭和40年)に現在の高石市取石に移転しました。最初は美術缶を製造していたようですが、時代の流れとともに、食品缶、薬品缶なども製造するようになりました。祖父の長男であった私の父が2代目を引き継いだ後も、新たに滋賀工場を稼動し、溶接技術・開缶技術の研究と品質向上に努めてまいりましたが、2015年にその2代目が急逝しました。私の母親が3代目の代表取締役に就任し、私は翌2016年に前職の通信会社を辞めて明和金属工業に入社。今年10月に代表取締役を母親から引き継ぎました。

義理の父である創業者は農学部の出身で、戦時中は朝鮮半島でお酒を造る官吏の仕事をしていたようです。戦争で引き揚げた後、知り合いから美術缶の製造機械を買い取ってもらえないかと打診があったのが創業のきっかけと聞いています。私自身は、40年近く前に結婚で渋谷家に嫁ぎ、夫が亡くなるまでは主婦業一筋。3代目就任時は右も左も分からない状況でしたが、社員の皆さんの力添えで乗り越えてこられました。

―創業者・2代目との昔の思い出などありますか?

子どもの頃は、父親がまだ鉄鋼会社(当時、新日鉄。現、日本製鉄)に勤務していたので、生まれた時は岩手県釜石市、幼稚園に上がると大分へ、小学校に入ると山口へ、といった具合で転勤族でした。小学校4年生の時に、祖父の設立した明和金属工業へ父が入社するのをきっかけに、西宮市へ。大分にいた頃、父親が私を製鉄所に連れて行ってくれたことがあります。何千度という大きな鉄の塊が炉に入る様子や、でっかい厚い板でドーンと打つ様子を見ました。工場の広さや熱さなど、とにかくスケールの大きさを感じました。また一般のご家庭よりも、家に缶の数は多かったとは思います。缶づくりをしている祖父、父の背中をみて、将来は私も缶づくりを継ぐのだという気持ちはありました。

初代社長は、とにかくこまめな方でした。社員をとにかく大切にされる。ゴルフの景品を自分で購入したりなど、温かくてサービス精神旺盛な方でしたね。会社の名前を、渋谷ではなく明和としたのも、「明るく和やかな」会社にしたいという思いが強かったからと聞いています。だから、今でもその精神を大切に引き継いで、家族ぐるみのあったかい会社にしたいなと思っています。

小ロット多品種に、新技術も導入
―事業の強みについて教えてください

我々は、丸いスチール缶=丸缶をメインで製造しています。調味料、コーヒー、菓子類などの食用缶をはじめ、薬品やテニスボール缶にいたるまで、創業以来300種以上を手がけてきました。径の違いも何種類もできますし、高さは40ミリから、270ミリ超のヘリウムガスなどを入れるジャンボ缶まで自在に対応できるのが最大の強みですね。特にジャンボ缶の高さを溶接缶で製造できるのは、弊社ぐらいかなと思っています。
あわせて、EOE(FOE)蓋のラインを持っているのも珍しいですね。大手メーカーを除いたら、弊社ぐらいじゃないでしょうか。EOE蓋は、今までは缶切を使わないと開けられなかったのが、タブをつけることで簡単に開けやすくなった技術。弊社では、某中華調味料のEOE蓋を製造しています。

―某調味料の缶、開ける瞬間が気持ちいいですよね。丁度いい具合なんです

ありがとうございます。うれしいですね。溝が深すぎて商品を充填した時に衝撃で開いちゃってもダメですし、逆に浅すぎて開けにくくてもNGです。開けやすく密封性も担保されている溝の深さを管理しています。

最近、お年寄りの方から好評なのがアルミシール蓋です。プルトップと違って楽に開けやすいと、うれしいお声をいただいています。

アルミ蓋の技術については、我々独自の製品になりますので、今後どんどん営業をかけてシェアを増やしていきたいですね。アルミシールだと開けやすいし、手を切る心配もないですね。アルミシール蓋については、主にたばこの缶や抹茶の缶の中蓋に使われています。

大手さんと違って、弊社は小ロット多品種も武器です。小回りの良さで業界に食い込んでいかないと、と感じています。

缶の数量が小ロットなので、効率性を求めてチームで考えて動いています。色々な種類を扱っていますが、数量自体は少なくなっています。印刷が伴うものは2,000缶くらいから、無地缶ですと1缶からご発注いただけます。

さらなる「安心・安全」を求めてISO取得
―最近、国際的な品質管理体制の認証である「ISO9001」を取得されたと伺いました

当社では、以前からお客様からの要望もあった「ISO9001」を、2019年の8月29日に取得しました。特に、食品に関わる製品を扱っていますので、「安心・安全」な制作管理体制が構築できていることで、よりお客様に満足していただきたい。消費者の品質への意識も高まる社会情勢もあり、まずはISOを取得しようと考えました。2018年の8月28日にキックオフを行い、1年がかりの大プロジェクトでした。

実は数年前にも一度取得への動きはあったものの、事情で頓挫していたのです。1年で取得できたのは、その時の土台もあったからこそ。担当リーダーの方は、何度もセミナーに参加し、勉強会を開き、本当に辛抱強くやってくださいましたね。

―ISO9001の取得を経て、何か社内で変化はありましたか?

ISO取得に向けた1年間は、全員で動きましたので、チームワークや組織力が強くなりましたね。また、手がける製品の「安心感・安全感」をお客様に提供し、それで我々はお金をいただいているという共通意識も、よりいっそう根付きました。

ISO導入後は、社内の不良率やクレーム件数も低減しています。毎月1回はお客様が当社の製造現場を見にこられます。皆さんからは「建屋自体は昭和40年築と古いが中身はきれいに扱っている」「品質に対する考え方、不具合品を出さない取り組みは素晴らしい」と、嬉しい評価をいただいております。

―工場内を見渡すと、キレイに掃除が行き届いており、機械の周囲には業務に関係のない備品やゴミは一切ないですよね。

異物混入がわれわれ製造業にとっては、一番注意すべきこと。当社では、ISO取得以前からも5S活動(整理、整頓、清潔、清掃、しつけ)を取り組んで来ました。当たり前ですが大切なことですね。

社の基本方針である「良い製品は美しい環境から生まれる」は、創業者の言葉。当時から5S的なことは徹底されていたようです。私たちも、日常的な掃除はもちろんのこと、月2回「5Sの日」を設け、自分たちでテーマを決めて、今日はココを徹底的に整理・掃除する活動をしています。

―水没検査・解体検査など、多くの検査工程を経ていると感じました。

われわれが手がける缶とは、パウダー状のものやガスを充填するものもあり、密閉性・密封性が命。漏れないということがなによりも大切ですね。そのための検査もぬかりなく行っています。

パートの勤務帯は自由!女性が働きやすい職場
―工場内では、多くの女性がイキイキと働く姿が印象的でした。
女性の働きやすさで気をつけている点などありますか?

皆さんチームワーク良いですね。業務においても女性はやっぱり、細かいところ(例えば検査など)にも、よく目が届くように思いますし。パート・アルバイトの方でしたら勤務時間もある程度自由で、縛ることはしていません。小さなお子さんがおられる方でも、ご家庭を優先した働きやすい時間の設定が可能です。そのため、昔からご近所の主婦の皆さん同士で働きに来てくださっています。そういう意味では、女性が働きやすい職場にはなっているかなと思います。本当にありがたいですね。

パート・アルバイトの方ですと、基本は8時55分~17時30分ですが、ご家庭の事情にあわせて、希望の時間で働ける環境です。例えば、子どもの送迎や家事を優先したいので、10時から15時まで勤務したいという希望も可能です。女性の働きやすさといえば、現会長が社長に就任してから始まった、男子禁制の食事会「女子会」もありますね。

年に数回、女性従業員の皆さんと一緒に、おいしいお店を探して行っています。
毎回楽しみです。

―社員教育で大切にしていることはありますか?

我々はメーカーですので、技術的な面はもちろんですが、なによりも安全面ですね。機械がむき出しになっているので、ここは触ったら駄目というものを徹底します。入社後数ヶ月は、工場の中で梱包、検品、溶接、蓋など各部門をローテーションして全体を学んでいただき、配属後はOJTで教育します。

―従業員の皆さんの笑顔がとても印象的でした。何かヒケツはあるのでしょうか?

ありがとうございます。実は、特別何かをしていることはありませんね(笑)。創業者、二代目が意識して、「人を大切にした」社風に努めてこられた賜物だと思います。

―地元とのつながりや、事業についての啓蒙活動はありますか?

今年、高石市の小学3~4年生に配られる、社会科の副教材「わが町高石」に、製造業として当社が紹介されています。あとは、毎年秋に行われる高石市商工会の「商工フェスティバル」に出展しています。毎年、参加型の体験イベントを開催していて、今年は、未来の自分に書いた手紙を缶に入れて蓋をした、タイムカプセルを行う予定です。参加された皆さんは、缶がどういう風にできているのかと知らない方が多いので、蓋が巻かれる様子をみて「おぉー」「すごい!」という声はいただきますね。今後も続けていきたいと考えています。

あと、「鉄」っていうのは、本当に地球にやさしい。容器をリサイクルして、同じ容器として使えるというのは、スチール缶しかないんです。リサイクル率は脅威の92%。皆さんが協力して、ポイ捨てしないでリサイクルに回してくださったら、必ず再生できる素材です。そういう鉄容器をもっと使ってもらって、リサイクルもしてもらえる社会になれば。その意味でも、活動を通じて、皆さんにもっともっと知ってもらいたいですね。

―明和金属工業の好きなところは?

みんな言い意味で真面目ですね。真面目にコツコツと、明るくやっていこうという創業の精神が今も息づいていると感じます。

家族のようにあったかいところです。弊社は、組織として製造部、品質保証部、営業部、生産管理部、総務部の5部門がありますが、5つがバラバラでなく、全部が力をあわせて一枚岩になって、歩んでいきたいですね。

―今後の動きとして、将来の狙いは?

どうしても缶業界というのは右肩上がりではなく、どちらかといえばペットボトルや紙容器に押されている業界です。しかしその一方、脱プラや廃プラという時代の流れもあります。会長が申したように、我々が製造しているスチール缶は再生率90%以上と、リサイクルに優れた環境にやさしい素材です。このスチールをなんとか盛り上げていきたいですね。
加えて、我々はスチール缶をメインで作っていますが、社名はあくまで「明和金属工業」です。なので、鉄にこだわり続ける必要もないのかなと。また製缶会社とも名乗っていません。広く「金属を扱う包装用パッケージメーカー」として、皆様のお役に立てればと思っています。
社長に就任してから最初に皆さんに「『明和』という名のとおり、チームワーク力・組織力・総合力を大事にしていきましょう」と伝えました。私たちは一人だけで仕事をしているんじゃない。互いに寄り添いながら、チームワークを生かしながら、「金属のプロ」として頑張っていきたいと思います。